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Pe への追悼

 高校時代からの友人であり詩人のMSが逝ってからもうすぐ一年になる。ボクが訃報を聞いたのは異国の地だった。思えば一昨年の十二月に「元気?わたしは調子が悪かったから年賀状を出さなかった。」とメールで言ってきたときにはもうその前兆があったんだ。何も知らないボクは、またその後いつものように連絡もしなかった。

 高校の同じクラブで音楽を、映画を、人生を語りあった。「ぺ」と呼ばれていたキミ。学生時代が終わり社会人になって離れた地で住むようになっても、お互いに家庭を持ってからも、どちらからともなく忘れた頃に「何してる?」という書き出しでしばらくは会話が続き、そのうち何年も途切れることの繰り返しだった。そしてこの関係はまだまだずっと続くはずだったのに。
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「ジプシーキングスって知ってる?いいよ、聴いてみな。」と言ったのはキミだったね。それからボクがジプシー音楽にのめり込んで行くのを見て「もうついていけないね。」とキミは笑った。ボクはボクでキミが韓国の詩人を追って韓国語の詩を和訳したりしてボクの知らない世界へ向かって行くのを、奇妙な思いで眺めていたんだよ。

 急に会話が増えたのはインターネットという電網の手段が出来てから。面白かった映画の話題、料理の話題、高校時代のクラブ仲間の話。キミは当時パソコン音痴のボクに色々教えてくれたよね。そしてキミはホームページを始め、詩を次々に発表していったんだ。

 今でも「ボクはまだホームページを作ることもできないよ。その代わりブログを始めたよ。ヴォーリズという建築家を知ってる?」と言うと、「知ってるよ。でも、またのめり込むのね。」と笑われそうな気がする。

 ボクは一年経って立ち直れたのだろうか。主のいない、更新されないままのキミのホームページを今も開く人がいるのだろうか。キミが残したたくさんの子供たちを読む人がいるのだろうか。キミの子供たちは行く当てもなく電網の空間をさまよっているんじゃないだろうか。もういいよ、ボクのブログにおいでよ。
2006.9.9 JS

Pe’s Poem 「遊泳」
  
  月を見て
  何かしら夢想するのは
  闇が身体に流入して
  白い丸い月が
  焦点を結ぶからである
  始めは
  月に住む兎のことなど
  やけに優しく想い
  おかしくなって
  突然笑いだしたりするが・・・・・
  何も面白いことはないのだ
  兎が居ようと
  餅をつこうと
  穴の中で寝ていようと
  宇宙交信していようと
  もう
  何も面白くはない Pe への追悼_c0094541_21382180.jpg
  憑きがおちると
  宙ぶらりん
  月の砂漠は砂嵐が激しくて
  足跡を刻むことができないから
  現在の位置さえ
  確かめる術もない
  あとに残るのは
  絵に描いた餅
  割れて砕けて塵になるまで
  いつまでも永久に
  闇に貼り付いておれ
  無限に続く闇と
  小さな空洞
  バランスを保ちながら
  注意深く歩いているのに
  街灯のない夜道では
  身体が傾いてゆく
  血液が逆流するのは
  あいつの引力のせいだ
  闇夜の月
  空洞の月
  天の穴
  兎の穴
  比喩の穴
  存在の穴
  歴史の穴
by gipsymania | 2006-09-09 21:30


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